最近、企業が株主還元の方針を示す際に、「DOE(株主資本配当率)」という指標を使うことがあります。
配当性向という言葉はよく聞きますが、DOEという言葉はまだ珍しいように思います。
しかし、調べてみると「DOE」という指標も役立つように感じています。今回は「DOE」の活用方法と、配当性向との違いを解説していきたいと思います。
【この記事の目次】
それでは早速内容に入っていきましょう。
DOEとは?
「DOE」は「株主資本配当率」とも呼ばれ、株主資本の内どれだけの割合を配当に回すかを示す指標となっています。
株主資本はその大部分を「資本金+資本準備金+利益剰余金」で求めることができます。
この内、資本金と資本準備金は事業を行うためにまとめて投資家から集めた資金であり、利益剰余金は毎年の純利益を積み上げたものです。
この中で配当に回すことになるのは主に利益剰余金の部分です。つまり利益を還元するという意味では配当性向と考え方は同じということです。
配当性向との違い
利益を株主へ還元するという根底の考え方は一緒でしたが、もちろんDOEと配当性向の間に違いはあります。その違いを確認していきます。
DOEが株主資本の内支払われる配当の割合を示すのに対し、配当性向は当期純利益の内支払われる配当の割合を示します。
つまり配当性向を基準にする場合、その年度の利益に応じて配当が決まることになります。そのため利益が大きく変動すると、配当もそれにつられて変動することが多いです。
一方でDOEを基準にする場合は、その年度の株主資本に応じて配当が決まることになります。
株主資本は「資本金+資本準備金+利益剰余金」で求められますが、この内毎年変動するのは原則利益剰余金のみです。そしてその利益剰余金の変動額は以下のように求められます。
「株主資本変動額=当期純利益−支払配当額」
この計算式から考えると、DOE採用時における配当の変動幅は、配当性向の時と比べて小さくなります。
これがDOEの特徴で、メリット・デメリットは表裏一体ですが、DOEを採用している企業からは比較的安定配当が期待できると言えます。
宇部興産の例
ここでもう少し理解を深めるために、実際にDOEを指標として採用している企業を見てみましょう。例として紹介するのは、「宇部興産」という会社です。
株主還元の方針をDOEと総還元性向の両面で公表しているので参考になると思います。
総還元性向は基本的に配当性向と同じ考え方で、純利益の内、配当+自社株買いに回す割合と考えると分かりやすいでしょう。
宇部興産では株主還元の方針を以下のように打ち出しています。
①DOE2.5%以上
②連結総還元性向30%以上
説明に入る前に、さらに宇部興産の数値実績について確認しておきます。(実績:2019年3月期/株価:2019年12月30日終値)
2019年3月期の配当は1株あたり80円で、配当性向は25.6%、DOEは2.5%でした。2019年3月期はほぼ方針通りの株主還元が実施されています。
では、仮に来期の「宇部興産」の1株利益が変動した場合に、配当性向とDOEを採用した場合でそれぞれ配当額にどのような影響が出るのか試算してみます。
表を見ていただくと分かると思いますが、配当性向を採用した場合は、利益によって配当額も大きく変わります。
一方でDOEを最近した場合は、仮に利益が0円だったとしても株主資本は前期分の配当金の支払いで減るくらいなので、配当額もそこまで減りません。
ここでもDOEを採用すると、配当の変動幅が配当性向を採用した時と比べて小さくことが分かります。
DOEの活用方法
DOEの活用方法についてですが、高配当利回り銘柄に選定する際に確認するのが良いと考えています。
DOEの特徴は、利益の変動があったとしても配当の変動幅がそれほど大きくならないという点です。
そのため、現時点で配当利回りに魅力のある銘柄がDOEを採用していた場合、ある程度それが維持されると考えることができます。
そのためポイントは
「高配当利回り+DOE採用」銘柄を狙うことです。
ただし、赤字が続いてしまう場合や、株主還元の方針自体を会社が変更してしまう可能性も当然ゼロではありません。
配当狙いの投資をするならば、業績の変動に対するリスク管理は必要になりますので注意しましょう。
まとめ
今回はDOEという新たな株主還元の指標を取り上げてみました。
DOEはまだまだ広く普及しているというほどではありませんが、今後広がっていくのであれば、知っておいて損はない知識だと思います。
この記事を書く際に色々調べていたところ、Google検索で普通に「DOE」と入力すればいくつか採用企業が出てきました。
あとは企業の決算発表を見ている際に時々出てきたりもします。
配当狙いの銘柄選定をする際にはぜひとも活用してみてください!